耳なし芳一の

阿弥陀寺に芳一という盲目の琵琶法師が住んでいた。
芳一は平家物語の弾き語りが得意で、特に壇ノ浦の段は「鬼神も涙を流す」と言われるほどの名手だった。
ある夜、和尚の留守の時、突然一人の武士が現われる。
芳一はその武士に請われて「高貴なお方」の屋敷に琵琶を弾きに行く。
盲目の芳一にはよくわからなかったが、そこには多くの貴人が集っているようであった。
壇ノ浦の戦いのくだりをと所望され、芳一が演奏を始めると皆熱心に聴き入り、芳一の芸の巧みさを誉めそやす。
しかし、語りが佳境になるにしたがって皆声を上げてすすり泣き、激しく感動している様子で、芳一は自分の演奏への反響の大きさに内心驚く。
芳一は七日七晩の演奏を頼まれ、夜ごと出かけるようになる。
ここが芳一にとっての分岐点だったのだろう。